トンボ
昨日、日課の散歩中にトンボを見つけて思わず立ち止まった。
保育園の散歩中であろう2歳くらいのお子たちが原っぱで遊んでおり、
その頭上をざっと20〜30匹程のトンボがホバリングしながら飛び交っていた。
思わず「トンボだ」とひとりごちた。
ああ、秋じゃん。
10月だから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど、朝晩涼しくなってきたとはいえ、日中は依然25度前後。
散歩していると、まだまだ汗ばむどころか汗が流れ落ちてくる。
トンボ飛んでるし、空も高いし、レンガの建物を背景に、絵になる構図だなあと思いながらまた歩き出す。
その瞬間、ぶわっと思い出した。
昔トンボにしてしまったことを。
私はそのとき広島にいた。
父方の実家は広島にあり、小学生までは毎年お盆に帰省していた。
祖父母の家は山を登って行く途中にあり、バスは登り坂の入り口までしか行かない。
そこからえっこらえっこら、歩いて登る。
戸建ての家は古くて薄暗く、虫が多かったり夜はカエルの鳴き声がうるさい。
おまけに応接間の壁に飾られた能面と鬼の面が怖くて仕方なく、子どもだった私は毎年祖父母の家へ行くのが嫌だった。
たぶんそのとき私は小学生高学年位だったと思う。
かなり暗くなった夕方(今思えば田舎で電灯が少なすぎた)、虫取り網を持って山を流れる川沿いへ出かけた。
川沿いにはトンボの大群が飛んでおり、
うぇーい!と網を振り回した。
瞬間、感じたことのない手応え。
おや?
虫取り網の網を引き寄せて見ると、細長い何かが入っている。
最初は何かわからなかったが、数秒ののちに理解した。
「?!?!」
トンボの胴体だった。びっくり。
さらにびっくりなのが、
「えっ?!えっ?!」
と空中を見ると、上半身だけのトンボが飛んでいた。
数十年前のことなので、記憶の改竄があるかもしれない。
だけど、私は確かに見たのだ!
下半身を失った、上半身だけのトンボが、そのまま飛んでいるのを。
中学生、高校生になると夏休みの間も部活などで忙しくなって、徐々にお盆の帰省に参加しなくなっていった。
次に広島へ行ったのは、大人になってからのこと。
あのときのトンボ、ごめん。
あれから虫取り網には一切触っていません。